太宰治「走れメロス」のあらすじや感想を3分で解説!

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太宰治の作品の中でも有名な「走れメロス」。国語の教科書で読んだことがある方も多いですよね。しかし、「どんな内容だった?」と聞かれると、ちょっと困ってしまうかもしれません。

多くの方が「うーん。なんかメロスが頑張って走るんだよなぁ…」くらいしか覚えていないですよね。

今回はそんなあなたのために「走れメロス」のあらすじや解説、感想をお伝えします。舞台背景や太宰のエピソードも併せて紹介しているので、ぜひ参考にしてくださいね。

物語の舞台と登場人物

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この小説の末尾には「古伝説と、シルレルの詩から。」という1文が入っています。

「古伝説」というのは、古代ギリシアの伝説のこと。その内容は「走れメロス」とほぼ同じで、人質を立てた主人公が約束を守るために走るというものです。

また、「シルシル」というのはドイツの有名な詩人、シラーを指しています。シラーも先に挙げた古代ギリシアの伝説をもとに詩を作っていますね。

走れメロス」の原型はかなり古くから存在しており、太宰がそれをわかりやすい物語に仕立て上げたのです。

この作品の舞台となったのは、現在のイタリアのシラクサという場所。歴史も古く、有名なアルキメデスの生まれ故郷でもあります。

イタリア1美しいと言われるドゥーオモ(教会堂)や、最大級のギリシア劇場、そして新鮮な海の幸をふんだんに使用した料理の数々…今も観光スポットとして親しまれている、素晴らしい街がシラクサです。

さて、作品の主な登場人物は、主人公のメロス、親友のセリヌンティウス、そして暴君ディオニスの3人です。

メロスは本作の主人公。妹の結婚式を控えておりシラクサの街へと出かけます。

セリヌンティウスシラクサに住む石工で、メロスの大親友です。

ディオニスはシラクサの王様なのですが、疑心暗鬼になり周りの人を次々と死刑にしているのです。

この3人によって物語がつむがれていきます。

走れメロスのあらすじ

メロスは16歳の妹と共に暮らす、善良な羊飼いの男である。

ある時、妹の結婚準備のためにシラクサの街へと向かう。

活気がない街を不思議に思い、通りかかった人に尋ねると、王が次々と人を殺しているのだという。王はあらゆる人を疑い、人の心が信じられなくなってしまったのだ。

正義を通そうと王に歯向かったメロスは、処刑を宣告されてしまう。殺されるのは怖くないが、唯一の心残りが妹だった。

妹の晴れ姿を見届けたら必ず戻ると約束し、無二の親友セリヌンティウスを身代わりに村へと急ぐ。

なんとか結婚式を無事に終え、友との誓いを果たすためメロスは野を駆ける。

彼の前には幾多の苦難が襲い掛かった。怒涛逆巻く大河を必死で突破し、山賊の襲撃を跳ね除けるも、これ以上足が動かなくなってしまう。

倒れ伏したメロスの胸には、後ろ向きな考えばかりが浮かんでくる。

諦めかけた彼の耳に、水の流れる音が聞こえてきた。見れば岩の裂け目から、こんこんと清水が湧きだしているではないか。

一口飲めば疲労も吹き飛び、再びシラクサめがけて駆け出した。

日が沈みかけ、処刑が執行されようとしたまさにその時、刑吏の前にメロスが躍り込んだのだ。

メロスとセリヌンティウスは互いの友情を確認し合い、ひしと抱き合った。その美しい姿を見て、「自分も仲間に入れてほしい」と悪逆の王も改心するのだった。

走れメロスの解説と感想

ここまでで「走れメロス」あらすじや概要はつかめたでしょうか?

ここからは、もう少し詳しく物語の流れをたどっていき、そのあとポイントと解釈をまとめて紹介したいと思います。

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王とメロスの対峙

この作品を理解するポイントは、暴君ディオニスとメロスの心情の変化にあります。

まず、シラクサの街へやってきたメロスは王が疑心暗鬼になり、多くの人を死刑にしていることを聞き、憤慨します。

「あきれた王だ。生かして置けぬ。」と王城に乗り込んでいってしまうのです。

ディオニスに死刑を言い渡されるメロスですが、妹の結婚式が無事済むまでは死ねません。

3日後には必ず帰ると約束するメロスに対して、王は意地悪な考えを起こします。

王は、残虐な気持で、そっとほくそえんだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。

そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいうやつばらにうんと見せつけてやりたいものさ。

人を信じられなくなった王は、メロスもどうせ約束を守らないと考えています。

もしメロスが戻らなければ、友人のセリヌンティウスを処刑することになります。

そうすれば、「やはり人は信じられない」ということが正しいと証明されるのだと王は考えていたのです。

苦難の旅路

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その後、メロスは村へと戻り妹の結婚式の準備を始めます。

いきなり結婚式を挙げろと言われて、妹やその婿からは反対を受けるのですが、どうにか彼らを説き伏せて、結婚式にこぎつけました

祝宴の中で、ふと弱い考えが浮かびましたが、それを押しとどめます。

メロスは、一生このままここにいたい、と思った。この良い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。

シラクサを目指して一目散に走るメロスですが、怒涛渦巻く大河や恐ろしい山賊たちが彼の行く手を阻みます

それらの障害を跳ね除け、何とか突破したメロスでありましたが、疲労困憊で倒れてしまいました。

まさしく王の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身なえて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いなふてくされた根性が、心の隅に巣喰った。

 私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、私は精一杯に努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。ああ、できる事なら私の胸を截ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。

愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。

くだらない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。

そして、メロスはすべてを投げ出したくなるような気持になってしまいます。

「もう、どうにでもなれ」という心境で寝転ぶ彼の耳に、水の流れる音が聞こえてきます。

湧きだしている清水を飲んだメロスは元気回復、先ほどまでの暗い考えも吹き飛んで、再び走り出します。

決して諦めないメロス

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なんとかシラクサについたメロス。その姿に気づき、セリヌンティウスの弟子であるフィロストラトスが駆け寄ってきました。

フィロストラトスに「もう間に合わない」と言われても、メロスは走る速度を緩めることはありません

「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い!」

ここでメロスは「もっと恐ろしく大きなもの」のために走っていると語っています。本文中では何を指しているのか明示されていませんが、一体どういう意味なのでしょうか。

まず、メロスが言っていることを整理してみると、

・親友が信じているから走る

・間にあうか間にあわないかは問題ではない

・もっと恐ろしく大きなもののために走っている

ということを語っています。

まず、親友であるセリヌンティウスがメロスのことを信じているからこそ、メロスは走っているのはわかりやすいですよね。

でも、次の「間にあう間にあわないかは問題ではない」というのはどういうことでしょうか。普通に考えたら、間に合わなかったらセリヌンティウスを失うことになるので、大問題ですよね。もちろん、親友を見捨てるという意味ではありません。

これを解釈するには次に言われている「もっと恐ろしく大きなもの」についてセットで理解する必要があります。ここでメロスは何を言っているのでしょうか。

「もっと恐ろしく大きなもの」とは「人間の正直さ、誠実な心」といったものを指していると私は思います。メロスは親友の命を助けるために走っているというよりも、親友との約束を守るために走っているのです。

もしメロスが裏切ってしまえば、セリヌンティウスは死ぬだけでなく、メロスとの友情もグラついてしまうでしょう。人の信頼関係は美しく、尊いものですが、一瞬で崩れてしまう脆いものでもあります。メロスはその美しい信頼関係を守るために走っているのだと思います。

友情の確認と王の改心

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まさにセリヌンティウスが殺されてしまうというその瞬間、メロスが躍り込み、間一髪、間に合いました。そして友人に対して、正直に自分の心を告げます。

セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。

「私を殴れ。ちから一杯に頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若もし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」

また、セリヌンティウスも正直な心境を話します。

「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」

2人は殴り合い、そして抱き合って喜びました。それを見ていた群衆も喜び、王も思わず感動していました

暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。

「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」

先も述べましたが、メロスはセリヌンティウスとの美しい信頼関係を守るために走っていました。王もそれを目の当たりにし、「信実」(正直であること)は嘘ではなかった、本当だった!と強く感動したのです。

ストーリー展開のまとめと感想

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ここまでの流れを短くまとめてみると、

①王は「メロスが戻らなければ人間を信じないことが正しいと証明される」と考えた。

②しかし、メロスはあらゆる困難を突破し、約束通りもどってきた。

③なので、王は考えを改め、人間は信じるに値すると思った。

という風になります。

疑心暗鬼に陥った暴君ディオニスは、メロスを使って自分の正しさを証明しようとしていたのですが、その正直を守ろうとする姿に心打たれたのです。

このように「走れメロス」は人間の正直という美徳を、躍動感あふれる筆致で書き表した作品だと思います。

「王が改心したからといって簡単に許しちゃダメでしょ…途中の盗賊をけしかけたの王だし…」などツッコミどころはありますが、全体的にストレートなメッセージが伝わってきますね。

書評・総合評価

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  • おもしろさ★★★★
  • よみやすさ★★★★

走れメロス」の評価を5段階で行ってみました。子供向けに書かれた作品であるため、文体や言葉遣いも平易で、引っ掛かることもなく読み進められる作品ですね。

短文を重ねて描写されることで、メロスの純粋な姿や、友との約束を果たそうと懸命に駆ける様子が目の前で起きているように伝わってきます

途中でメロスが倒れ、自らの考えに負けそうになるシーン、そしてそこから立ち直り、周囲を顧みることなく走り続ける姿は自然と応援したくなりますね。

テーマはやはり子供向けの内容だと感じるので、「太宰と言えば『人間失格』だ!」と思っている方は肩透かしを食らった気分になるかもしれません。

でも、こういった作品を書けるのも太宰という作家の魅力だと思います。「こんな側面も太宰にはあったんだな…」と気づかされるので、ぜひ読んでみてくださいね。

余談:走らなかった太宰

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実は「走れメロス」を描く以前、作者の太宰治同じような出来事を経験していたというのです。

ちょうどその頃、太宰は熱海の旅館に滞在していたのですが、いつまでも家に帰ってきません。心配した妻は、太宰の友人の檀 一雄に「様子を見てきてくれ」と頼みます。

壇は太宰を訪ねるのですが、2人はものすごく仲が良かったんですよね。2人して毎日飲み歩き、お金を使い切ってしまいました。無一文になってしまったので、宿の料金を払うこともできません。

困った太宰は「お金を借りてくる」と、壇を身代わりにして東京の井伏鱒二のもとへと向かってしまいました。まさに走れメロス」と同じシチュエーションですよね。しかし、太宰はメロスではありませんでした。

いつまでたっても戻ってこないことに痺れを切らした壇は、宿に話をつけて太宰を追いかけます。東京に着いた壇が目にしたのは、井伏と一緒に将棋を楽しむ太宰の姿。ブチ切れそうな壇に太宰は一言、「待つ身がつらいかね、待たせる身がつらいかね」と言い放ったそうです。

さすがの太宰も、師匠にあたる井伏に借金のことは言い出しにくかったのでしょうが、「友人を放っておくなよ!」と思ってしまいます。メロスは走ったが、太宰は走っていなかったんですね。

走れメロス」が収録されているこちらの作品もおすすめです!

別記事では太宰のおすすめ作品についても解説しています。興味がある方はぜひ読んでみてくださいね。

bunngou-matome.hatenablog.com