「注文の多い料理店」のあらすじと解説!猫って意外と怖い?

restaurant

小学生のころ、「注文の多い料理店」を図書館で借りて読んだ記憶があります。物語は短いのですが、不思議な雰囲気が漂っていて、引き込まれるような感覚を覚えました

大人になって読み返してみても、他の作家とは違って幻想的な世界観には心引かれます。やっぱり宮沢賢治の作品は独特な魅力がありますね。

今回は「注文の多い料理店」のあらすじと解説、感想をまとめてみました。さあ、物語の世界に飛び込んでいきましょう。

注文の多い料理店の登場人物と背景

最初に物語の背景を整理しておきましょう。

注文の多い料理店」は短編集の中に収められた作品の一つでした。

現在では宮沢賢治の代表作として知られていますが、発売当初はほとんど売れなかったといいます。いまでこそ賢治の名前は全国に知られていますが、生前は原稿料もほとんどもらったことがなかったそうです。

没後、宮沢賢治作品の評価が高まる中で「注文の多い料理店」も注目されていきました。

この物語の主な登場人物は、2人の青年紳士です。猟犬を連れて山で狩りをしていたところ、謎の料理店に迷い込んでしまうというところから物語は始まっています。

作中の描写から、若く金持ちで、太っているということがわかります。楽天的な性格なのか、物語の終盤まで「山猫亭」の様子を怪しんでいません。

しかし、最後には恐ろしい目にあい、大変な結末を迎えるのです。

注文の多い料理店のあらすじ

ある2人の若い紳士が猟犬を連れて山に狩りに出掛けた。しかし、待てども暮らせども何の獲物も出てこない。

あまりの山の奇妙さに、案内人とははぐれ、猟犬は泡を吹いて倒れてしまう。

「何の獲物も捕れず、犬も失うとは大きな損失だ」と下山を決意した2人の前に、突然、立派な洋館が現れる。

「ただでうまい料理が食べられそうだ」と腹をすかせた2人は「山猫亭」の中に足を踏み入れたのだった。

入った2人を待っていたのは「太った人や若い人は大歓迎」という看板。これを見た2人は「自分たちは若くて太っているから歓迎されているのだ」と思い込み、意気揚々と山猫亭に踏み込んだ。

進んでも進んでも店の中は広く、なかなか奥までたどり着かない。

そのうちに、「髪をとかして泥を落としてください」「鉄砲を置いてください」「帽子とコートと靴をお脱ぎください」などの指示が現れた。「これはよほど偉い人が来ているに違いない」と都合よく解釈し、指示通りにしていく。

しかし、最後の指示は「身体に塩をぬりこめ」というもの。さすがの2人も自分たちが調理されることに気づき、ガタガタ震えだす。

扉の向こうからは楽しそうな声が聞こえ、もう助からないと思ったその時。戸を突き破って猟犬が躍り込んでくると、「山猫亭」は雲のように消えてしまった。

はぐれた案内人とも合流し、安堵した2人の紳士であったが、あまりの恐怖で顔はくしゃくしゃになってしまい、2度と元に戻ることはなかった。

注文の多い料理店の解説

f:id:bunngou50:20180529163107j:plain

面白いポイント

この物語の面白い点は「2人の若者が全然怪しまずに進んでいく」ことにあると思います。「山猫亭」は怪しさ満点なのですが、自分に都合よく解釈していくんですよね。

まず、山の中に立派な洋館があるというのが怪しいです。しかも、扉を開けるとすぐにこんな文字が飛び込んできます。

  • 「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」

なんで太った人と若い人を歓迎するのか分からないですよね。

ですが2人は「俺たちはどっちの条件にも当てはまる!」と喜んで奥に進んでいきます。

そして、2人のおかしな解釈は続いていきます。

「たくさんの戸がある」というのには「ロシア式だから」と答え、「鉄砲や帽子、コートを脱いでください」というのには「よほど偉い人が来ているんだ」と都合よく解釈します

「クリームを塗りこめ」というおかしな指示に対しても、「部屋が乾燥しているから」という理由をつけて疑わないのだから面白いですよね。

2人がやっと気づくのは「塩をもみこめ」という指示があった時でした。

「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。

お気の毒でした。もうこれだけです。

どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」

これでやっと「自分たちが料理を食べる」のではなく、「自分たちが料理される」ことに気づいたんですね。

 このように2人の都合よい解釈と最後のギャップがこの物語を面白くしています

2人を食べようとしていたのはどんな猫?

物語の中では、2人を食べようとしていた者たちの姿は明確には描かれていません。ですが、その正体は猫の化け物だと見当がつきます。

ヒントは作品全体にちりばめられていますね。例えば…

  • レストランの名前が「山猫亭」
  • 好物の牛乳のクリームを塗りたくらせた
  • 犬が飛び込んだあとの「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」という声

 これらのヒントから猫たちだと想像できると思います。

 「人間を食べる」というのは、ただの猫ではなく化け猫ということでしょう。

例えば、日本には全国的に「猫又(ねこまた)」という妖怪の伝説が残っています。

長年生きた猫は、人の言葉をしゃべったり、ドアの開け閉めをするようになったり、尾が二つに裂けたりする…という話をあなたも聞いたことはありませんか?

この物語に登場した猫たちも、そういった存在に近いように思います。

宮沢賢治の物語は岩手が中心に描かれています。そして、岩手といえば柳田邦夫の「遠野物語」でも知られるように、妖怪などの伝説が多く残っている地です。

もしかしたら、賢治も幼いころからこんな話を耳にしていたのかもしれませんね。

しかし、この化け猫たちはどちらかというとかわいらしい印象を抱くように描かれています。

「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。」

「あたりまえさ。親分の書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、間抜けたことを書いたもんだ。」

「どっちでもいいよ。どうせぼくらには、骨も分けて呉くれやしないんだ。」

「それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それはぼくらの責任だぜ。」

こんな会話を聞いちゃうと、ちょっとおちゃめな猫たちを想像してしまいますよね。

かわいい猫たちですが、2人の若者たちには大変恐ろしい存在として映っていました。ちょっと怖い結末を最後に見ていきましょう。

物語の結末は?2人の紳士はどうなった?

f:id:bunngou50:20180620151449j:plain

あらすじでも触れましたが、猟犬が乱入してきたことで猫たちのたくらみは失敗に終わります。これで2人の紳士は助かったのですが、最後には悲しい結末で閉じられています。

そして猟師のもってきた団子をたべ、途中で十円だけ山鳥を買って東京に帰りました。

しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった2人の顔だけは、東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした

…2人の顔は紙くずみたいにくしゃくしゃになってしまったままなんです。

猫たちに食べられるという恐怖から、2人の顔は変形してしまったのですが、それが治らないのはよく考えると恐ろしいですよね。

以前読んだ時にはあまり印象に残らなかった部分ですが、改めて読むと怖い結末でした。

でも、どうしてこのような結末を賢治は描いたのでしょうか。少し考察してみました。

賢治が伝えたかったことは?

注文の多い料理店」を通して、宮沢賢治どんなメッセージを伝えたかったのでしょうか。物語は子供向けの「おもしろい話」と捉えることもできますし、私もそういう風に思っていました。

しかし、うえで見たように2人の紳士は「顔がくしゃくしゃ」になってしまい、二度ともとには戻りません。この事実を考えると、もう少し深いメッセージが込められているように感じました。

大きく分けて、2つのメッセージがあるのではないかと思います。

まず、1つ目は「上流階級への批判」です。2人の紳士が太っているというのは金持ちの象徴だと思われます。

そんな紳士たちは山猫亭を不審にも感じないと、かなり「愚かな様子」が強調されています。

賢治自身も裕福な家庭の生まれでしたが、「質屋」という父の商売を嫌に思っていました。

人から搾取して、自分たちは裕福になっている。賢治は、世界全体の幸福を願っており、人を犠牲にする生き方を強く否定していたと感じます。

2人の金持ち紳士がひどい目にあうというのは、上流階級に対する嫌悪感が込められているのかもしれません。

2つ目の解釈としては、「人間の傲慢さへの批判」です。この物語では、猫が人間を食べようとしています。

普段私たちは「食べる側」であり、「食べられる側」に回ることはめったにありません。

なので、食べるために命を奪うことは当たり前と捉えがちです。しかし、よく考えてみればこれは決して当たり前のことではありませんよね。

賢治の根底を流れる仏教の思想でも「どんな生き物でも命の重さは同じ」だと言われます。

命の尊さを忘れてしまっている人間に対する罰という観点からも、この物語を捕えることができるのではないでしょうか。

書評・総合評価 

f:id:bunngou50:20180718150030j:plain

  • おもしろさ★★★
  • よみやすさ★★★★★

注文の多い料理店」を5段階で評価してみると上記のようになりました。

まず挙げられるのは、「非常に読みやすい」という点です。子供向けに書かれた本なので、難しい言葉は少なく、スラスラ読める本です。

全体的に短く、2人の紳士の会話が多いのも本を読みやすくしていますね。

「おもしろさ」という観点で評価すると、内容が子供向けでやさしい分、少し物足りなさも感じました。

もちろん、2人の紳士の間抜け具合から猫たちに食べられそうになる展開はクスっときますし、内容を色々と解釈することもできる本です。

しかし、例えば芥川や太宰の小説のようにテーマ自体が深いということは言えません。なので、「哲学的な深いテーマ」を求めている方にはちょっと物足りないかもしれませんね。

余談:山猫亭は実在する?

調べてみると、物語の「山猫亭」は岩手県に実在するということです。「宮沢賢治記念館」の一角に「Wildcat House 山猫軒」という名前でオープンしています。

原作通りの指示が壁に書かれていたり、クリームや塩が置かれていたり、まさに「注文の多い料理店」そのもの。

しかし、山猫はいないそうなので安心して食事を楽しめます。食べられる方じゃなくてよかったですね。近くにお立ち寄りの際は、ぜひ行ってみてはいかがでしょうか?

宮沢賢治の作品はこちらの記事でも解説しています。

bunngou-matome.hatenablog.com