太宰治「女生徒」のあらすじと解説を徹底的に紹介!

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太宰の小説の中でも代表作の1つとして挙げられるのが、「女生徒」です。この作品は、他の作品と比べてもおもしろい魅力にあふれています。というのも、思春期の女の子の視点で、現代ならSNSで飛び交っていそうな心境がぶちまけられているからです。

男の太宰はどうしてこんな作品を書けたのでしょうか?今回は女生徒のあらすじや解釈、そして背景知識をお伝えします。3つのポイントからわかりやすく紹介しているので、ぜひ参考にしてくださいね。

女生徒の背景やモデル

実はこの作品は、太宰のもとに送られてきた1冊の日記がもとになっています。日記の差出人は有明(ありあけしず)といい、彼女は太宰治のファンで19歳ごろに書いた日記を太宰のもとに送ったのです。

太宰はその日記をもとに「女生徒」を書き上げました。こう聞くと、「じゃあ、太宰のオリジナルじゃないの?」と思うかもしれませんね。確かに、研究者によると「女生徒」は9割ほどが元の日記の文章だとも言われており、そういう意味ではオリジナル作品ではありません。

しかし、太宰の手が全く入っていないわけではないのです。例えば、元の日記自体は3か月分くらいのボリュームがあるのですが、女生徒では1日の話に凝縮されています。もちろん、この過程で文章は取捨選択され、つながりが自然になるように組み替えられています。

このことから考えるに、太宰治という編集者が見事な手腕で有明淑の日記を「編集」し、「女生徒」という作品に仕立て上げたという捉え方が正確でしょう。

ちなみに、有明淑も「著作権の侵害だ!」などと憤慨することもなく、喜んでいました。太宰は彼女のためにお見合いをセッティングしてやるなど、関係は良好だったといいます。

女生徒のあらすじ

「私」が朝起きてから夜眠りにつくまでの、とりとめのない考えが描かれる。

主人公の「私」は14歳で、父を亡くし母と2人で暮らしている。ちょっとしたことが気になり暴力的な衝動に駆られては、自己嫌悪に陥り、楽しい気分でいたいと思ったら急にイライラとしてくる。

飼っている犬に意地悪をしたかと思えば、急に優しく接してしまう。友達を可愛らしく思ったり、反対に嫌に思ってしまう。

母親のことが気に食わないと思っているのに、急にいとおしくなってくる。自分らしさを貫きたいと思うのに、愛想よくふるまっている自分に気づく。

父や姉を恋しく思ったり、生きづらい世の中のことを憂えたり。とりとめのない考えを抱きながら、少女の1日は終わるのだった。

女生徒の解説

上記のようにあらすじをまとめてみましたが、このお話には他の小説のようにきっちりとしたストーリーがないのです。少女が自分の思いをそのまま吐き出すという形で、小説というよりエッセイに近い形式になっています。

簡潔にまとめると、「女生徒」は思春期の少女の複雑な心境を、とめどもなく表した作品です。これをひとつひとつ展開を追って見ていくのは大変なので、少女の気持ちを「女性」という観点から3つにまとめて解説していきたいと思います。

①自分の醜さを見つめていやになる

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私は、カアだけでなく、人にもいけないことをする子なんだ。人を困らせて、刺戟する。ほんとうに厭な子なんだ。

縁側に腰かけて、ジャピイの頭を撫なでてやりながら、目に浸しみる青葉を見ていると、情なくなって、土の上に坐りたいような気持になった。

こうして、おとなしく先生のモデルになってあげていながらも、つくづく、「自然になりたい、素直になりたい」と祈っているのだ。

本なんか読むの止めてしまえ。観念だけの生活で、無意味な、高慢ちきの知ったかぶりなんて、軽蔑、軽蔑。

やれ生活の目標が無いの、もっと生活に、人生に、積極的になればいいの、自分には矛盾があるのどうのって、しきりに考えたり悩んだりしているようだが、おまえのは、感傷だけさ。自分を可愛がって、慰めているだけなのさ。

 少女は、ただ毎日が楽しいだけではなく、時折醜い心を見つめて自己嫌悪に陥ります。しかも、「悩んでいる自分に酔っている」ことに気づき、嫌な気分になるのです。

人生について考えるのは立派なことなのですが、彼女は「自分は醜い」と考えることで、そんな自分を可愛がろうとしていました。

②自分と同じ女のあさましさ

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そんなに私は親しくしてあげているわけでもないのに、お寺さんのほうでは、私のことを、あたしの一ばんの親友です、なんて皆に言っている。

可愛い娘さんだ。一日置きに手紙をよこしたり、なんとなくよく世話をしてくれて、ありがたいのだけれど、きょうは、あんまり大袈裟にはしゃいでいるので、私も、さすがにいやになった。

けさ、電車で隣り合せた厚化粧のおばさんをも思い出す。ああ、汚い、汚い。女は、いやだ。自分が女だけに、女の中にある不潔さが、よくわかって、歯ぎしりするほど、厭だ。

金魚をいじったあとの、あのたまらない生臭さが、自分のからだ一ぱいにしみついているようで、洗っても、洗っても、落ちないようで、こうして一日一日、自分も雌の体臭を発散させるようになって行くのかと思えば、また、思い当ることもあるので、いっそこのまま、少女のままで死にたくなる。

自分の友人をかわいらしく思う一方で、はしゃぐ様子をみて嫌になったりします。また、電車で見かけたおばさんに対して、いつまでも綺麗でいたいという浅ましさを感じ、嫌悪感でいっぱいになります。

ポイントは、嫌なのに自分も同じ女という点ですね。だからこそ、他の女性の気持ちもわかってしまうし、自分にもそういった部分があるのだと少女は自己嫌悪に陥っていくのです。

③母に対する複雑な感情

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お母さんも、私を絶対に信じて、ぼんやりのんきにしていらしったら、それでいいのだ。私は、きっと立派にやる。身を粉こにしてつとめる。

それがいまの私にとっても、一ばん大きいよろこびなんだし、生きる道だと思っているのに、お母さんたら、ちっとも私を信頼しないで、まだまだ、子供あつかいにしている。

父を亡くし自分が母親を支えたいと思いつつも、いつまでも子ども扱いされることにはうんざりしています。また、客に対する母の態度を見てやり切れない思いを抱くのです。

お客さんと対しているときのお母さんは、お母さんじゃない。ただの弱い女だ。

お父さんが、いなくなったからって、こんなにも卑屈になるものか。情なくなって、何も言えなくなっちゃった。

 

思った通りのことを言わず、ご機嫌取りばかりをしている母親の姿を見て、少女は嫌気がさしてきます。

しかし、自分はどうかといえば、やはり母と同じことをしているのです。

帰って下さい、帰って下さい。私の父は、立派なお方だ。やさしくて、そうして人格が高いんだ。お父さんがいないからって、そんなに私たちをばかにするんだったら、いますぐ帰って下さい。

よっぽど今井田に、そう言ってやろうと思った。それでも私は、やっぱり弱くて、良夫さんにハムを切ってあげたり、奥さんにお漬物とってあげたり奉仕をするのだ。

それでも、母に対しては失望していた少女でしたが、後ろめたさを感じさせることなく映画を見に行かせてくれる母の気遣いを受けて、反省をします。

お父さんがいなくなってからは、お母さんは、ほんとうにお弱くなっているのだ。

私自身、くるしいの、やりきれないのと言ってお母さんに完全にぶらさがっているくせに、お母さんが少しでも私に寄りかかったりすると、いやらしく、薄汚いものを見たような気持がするのは、本当に、わがまますぎる。

お母さんだって、私だって、やっぱり同じ弱い女なのだ。これからは、お母さんと二人だけの生活に満足し、いつもお母さんの気持になってあげて、昔の話をしたり、お父さんの話をしたり、一日でもよい、お母さん中心の日を作れるようにしたい。そうして、立派に生き甲斐を感じたい。

このように、父を亡くし弱くなった母親を少女は受け入れ、1つ大人になったのです。

少女の母に対する心情は、思春期の親に対する思いとして、非常に共感できます。

書評・総合評価 

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  • おもしろさ★★★
  • よみやすさ★★

「女生徒」について5段階で評価してみました。先ほども触れましたが、この作品はある女生徒が思ったことをつづった形式になっているので、ストーリーというものがありません。エッセイと言えばエッセイなのですが、あまりにもとりとめがないのでちょっと読みにくい作品でした。

「女生徒」は表現がみずみずしく、思春期のとりとめもない心情を巧みに表現しているところが面白い作品です。一貫したテーマというのはあまり感じられませんが、読み進めていくと共感できる部分がドンドン発見されます

なので、「内容を全部理解してやろう!」と思うよりも、「太宰はこんな小説も書いているんだなあ」ぐらいの気持ちで読むのがちょうどいい気がします。

おわりに

女生徒は主人公の少女の心境がとりとめもなく書きつづられた作品です。読んだ感想としては、太宰は本当に女性の心理描写がうまいと感じました。

今回は「女性」という観点から解説をまとめてみましたが、女性ならとくに共感できる部分だと思います。また、男性が読んでも「確かにな」と思える部分がたくさんあるのもこの作品のいいところです。

読んだことのない方もぜひ1度手に取ってみてはいかがでしょうか。

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